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(これまでの対談)

自らの軸を考える

~社長対談2008:辰巳渚様~

鈴木
確かに選択肢が多いのは間違いないと思います。その分、自分自身にはっきりとした軸を持たなければならないのですが、そういったことを考える機会が少ないのかもしれません。
私は社員に対して「社是社訓や経営理念を一字一句間違えずに覚えなさい」と言っています。なぜなら企業において、軸となる考えは社是社訓や経営理念だからです。
私たちのグループでは経営理念の中で「一人ひとりのお客様に、最も信頼され、親しまれるグループをめざします。Food, for ages 0-100」というめざす姿を掲げています。これは「一人ひとり」も「最も」も抜け落ちてしまってはいけないのです。なぜなら、「お客様に」ではなく「一人ひとりのお客様に」となっているのは何故か、「最も信頼される」と「信頼される」の違いは何かというように、その言葉に込められた意味に自分自身で気づき、考えていくためには、まずはそうした一字一句を間違いなく覚えておかなければならないからです。
そうした企業として軸となる部分を置き去りにしないことが、企業自らの行動様式を変えていく根底に必要なことではないかと思います。同じように自らの生き方にきちんとフォーカスをして、企業や、あるいは家庭の中で、自分の生きていく軸を考えていくことが必要なのではないでしょうか。
辰巳
そうですね。今おっしゃった経営理念のような軸を、家庭の中で親が与えられるような、そんな働きかけができるとよいのかもしれません。
そのようにして自分自身の幸せを真剣に考えるようになれば、自ずと社会のことも考えるようになるはずなのです。政治や経済といった大上段から構えなくても、自分の足元をしっかりと見ていれば、住んでいるところを中心にやがて社会全体に広がっていくのだと思います。
鈴木
そこで自分のやっていることが社会につながっている、役立っていると考えることが大事なのでしょう。企業を通じて自分がやっていることに、ありがとうと思ってくれる人がいて、そのことを良かったなと感じられること。会社が何かをやっているではなくて、一人ひとりが普段の活動を通じてそう感じていけることが大切だと思います。

一つひとつのものづくり

鈴木
ですから、そういったことを現場の人たちが考えていけるように、我々経営者は働きかけていかないといけないと考えています。
ある商品について「この商品は社会的価値がある」といった伝え方では、社会的価値がないものはそもそも売れないのであって、価値があるのは当たり前という無味乾燥な話でしか捉えられません。
でも例えば、「ベビーフードは必ず親も味見をします。その時にあまりおいしくないけど、せっかく買ったものだからと食べさせるのと、本当に安心しておいしいと思って笑顔で食べさせるのとでは、どっちの赤ちゃんが良い子に育つと思いますか」。そんな話をすると、「そうだ、おいしいベビーフードを作りたいね」という気持ちにつながるはずです。
食品メーカーというのは、そういった商品がお届けできるよう、一つひとつ食品づくりをしていく必要があるのです。どんなに良い仕組みがあっても、それを使って食品を作る人の気持ちがこもらなければ良いものはできません。そんな食品メーカーでありたいと思っています。
辰巳
手作りではない商品であっても、気持ちが入ったものか、そうではないかを、買い手はちゃんと見分けている気がします。キユーピーには、そういった人間性への信頼があるのでしょうね。
鈴木
今おっしゃっていただいたようなことを感じていただいた時に、どこの商品かと見たらキユーピーだった。そう言われることをめざすのがメーカーとしての生き方だと思います。それは企業の社会に対する品質管理のようなもので、そのための哲学や経営理念のようなものがないと、今のような気持ちになっていただくのは難しいでしょう。そしてそういった積み重ねが企業への信頼感につながっていくのだと考えています。

2008/4/8 渋谷本社にて

辰巳 渚氏 プロフィール

消費行動研究家。
1965年生まれ。お茶の水女子大学文教育学部卒業後、マーケティング雑誌記者を経てフリーのマーケティングプランナーとして独立。2000年に刊行した『「捨てる!」技術』(宝島社新書、現在は宝島社文庫)で、モノあまりの時代の新しい生活哲学を提唱。物質的に豊かな世の中で、どうしたら楽しく豊かに生きていけるかを提言しつづけている。


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